前回の記事では、2026年上期に何が起きたのかを振り返りました。今回は毛髪診断士として、そしてヘアテックを事業にしている立場から、2026年7〜12月に何が起きるかを6つの仮説として書いてみます。
予測なので当然外れるものもあります。だからこそ、それぞれ「なぜそう考えるか」の根拠と、「いま準備できること」をセットで書きました。半年後に答え合わせをするつもりです。
予測1|診断が「オプション」から「接客の前提」になる
そう考える根拠
上期にKérastaseのK-ScanやMalibu CのDigital Scopeといった診断ツールがサロンに広がり、拡大画像・毛髪指標・経過追跡が売り物になりました。同時に国内では美容室の供給過剰と倒産件数の高止まりが指摘されています。
需要が伸びているのに淘汰が起きる市場では、差別化の軸は「体験の質」から「根拠の提示」に移ります。
下期に起きること
- カウンセリングシートの代わりに、タブレットやスマートフォンでの画像診断が最初の3分を占める店舗が増える
- 単発メニューではなく「3か月プラン」「6回コース」といった経過観察前提の設計が標準化
- 物販の売り方が「これがおすすめです」から「あなたのこの数値に対してこれです」に変わる
いま準備できること
- サロン:診断結果を紙やLINEで顧客に渡す運用を先に作る(機器より運用のほうが遅れる)
- ブランド:自社製品が「どの状態の人に効くのか」を言語化しておく。診断側と接続できない製品は推薦されない
- 生活者:施術前後の写真を残しておくだけでも、自分の変化は追える
予測2|AI経由の「指名されない購買」が日本でも顕在化する
そう考える根拠
ビューティはエージェント型コマースの先行カテゴリです。悩み・髪質・成分といった消費者の言葉が、そのまま構造化された商品属性に対応するためです。上期の「AI Beauty Authority Index 2026」では、広告予算の大きなレガシーブランドが下位に沈み、成分と用途を明快に説明してきたブランドが上位を占めました。
AIは知名度ではなく、記述の明快さと第三者からの言及量を見ています。
下期に起きること
- 日本のブランドにも「なぜかAIに推薦されない」問題が可視化される。英語圏より半年〜1年遅れで顕在化するはず
- 商品ページの情報設計(成分、対象となる髪質・頭皮状態、使用手順、避けるべきケース)を作り直す動きが始まる
- 一方で、AIが購入まで代行する形にはまだならない。上期にOpenAIがInstant Checkoutを縮小したことが示すように、当面は「AIが推薦し、人が自社サイトで買う」形が中心
いま準備できること
- ブランド:SNS映えのコピーではなく、構造化された商品属性を整備する。「ツヤ髪へ」ではなく「乾燥・キューティクル損傷が主因のパサつき向け/シリコーン不使用/週2回」
- 効果の根拠、成分の役割、向かない人 — この3点を明記した商品は、AIにも人にも選ばれやすくなります
- 生活者:AIの推薦は「よく説明されている商品」に偏るということを知っておく。説明が上手いことと、自分に合うことは別です
Faviewの現場から ― 「読み解ける商品説明」と「読み解けない商品説明」
これは他人事ではなく、私たち自身が日々ぶつかっている課題です。
Faviewでは診断結果(カルテ)と製品をマッチングさせていますが、商品データを扱っていると、AIが読み解ける説明文と、そうでない説明文の差が非常にはっきり出ます。
読み解きやすいのは、こういう記述です。
- どんな状態の人向けかが書いてある(「乾燥してキシむ髪に」「皮脂が多くベタつく頭皮に」)
- 配合成分と、その成分が何をするかがセットで書いてある
- 使用頻度・使う順番・使う部位が具体的
- 向かない人や注意点にも触れている
逆に読み解きにくいのは、情緒的な表現だけで構成されているものです。「うるツヤ」「まとまる髪へ」「サロン帰りの仕上がり」— こうした言葉は人の心は動かしますが、どの状態の人に効くのかという情報を一切含んでいません。結果として、マッチングのアルゴリズムからは「該当条件なし」の商品として扱われてしまう。
良い商品なのに情報が足りないせいで推薦されない、というのは業界にとって明確な損失です。だからこそ、下期にブランドが取り組むべきは新しいコピーを考えることではなく、すでにある良さを構造化して書き直すことだと考えています。
独自辞書という手段
Faviewは、この「情報の集約」を独自の辞書で行っています。
- 商品マッチング用の辞書:成分、対象となる髪・頭皮の状態、テクスチャ、使用シーンなどを自社の基準で整理し、カルテの軸と対応づけている
- セルフケアアドバイス用の辞書:Faviewは商品提案だけでなく、テキストでの日常セルフケアのアドバイスも出しています。洗い方、乾かし方、食事、睡眠、生活習慣 — これらも同じく独自辞書として体系化しています
商品を売って終わりではなく、「今日から自分でできること」まで返す。そのために、バラバラの情報源に散っている知見を一箇所に集約する辞書が必要でした。
AIが商品を推薦する時代に効いてくるのは、モデルの性能そのものよりも、その手前にある「情報がどう整理されているか」です。ここは地味ですが、下期に効いてくる部分だと思っています。
予測3|GLP-1由来の抜け毛が、日本の相談窓口に現れはじめる
そう考える根拠
2026年に発表された系統的レビューでは、GLP-1受容体作動薬を使用した62万人超のうち約1.6%に脱毛の報告があり、自覚ベースでは10〜15%という分析もあります。主な機序は薬剤そのものではなく急激な体重減少による休止期脱毛と考えられています。
日本でも肥満症治療薬・美容目的の使用が拡大しており、海外より数か月〜1年遅れて同じ相談が来るのは時間の問題です。
下期に起きること
- サロンやドラッグストアの窓口に「最近急に抜けるようになった」という相談が増える。しかも原因を本人が薬と結びつけていないケースが多い
- 「抜け毛=育毛剤」という短絡的な提案では解決しない事例が増える
- 栄養(鉄・亜鉛・たんぱく質)と減量ペースを含めたヒアリングの重要性が上がる
いま準備できること
- サロン・販売の現場:急な抜け毛の相談では、この半年の体重変化と食事量を必ず聞く。休止期脱毛は多くの場合一時的で、体重が安定すれば回復に向かいますが、実感まで6〜12か月かかることがあります
- 診断や販売は医療行為ではありません。急激な脱毛、地肌が透ける、円形の脱毛がある場合は皮膚科の受診を勧めるのが正しい対応です
- 生活者:減量中の抜け毛は「痩せたせい」であることが多く、多くは回復します。慌てて高額な施術に走る前に、まず食事のたんぱく質量を確認してください
予測4|ヘッドスパは「気持ちよさ」から「エビデンス」へ二極化する
そう考える根拠
国内のリラクゼーションサロン市場は3年連続で拡大し、2025年に3,798億円規模と推計されています。一方で美容室の倒産は過去最多水準。市場は伸びているのに、個々の店は苦しいという典型的な供給過剰局面です。
下期に起きること
- 低価格のドライヘッドスパ(5,000〜7,000円帯)と、診断・経過管理まで含む高単価の頭皮改善メニューへの二極化が進む
- 「睡眠改善」「ストレスケア」といったウェルビーイング文脈での訴求が増える。頭皮のかたさを指標にする店舗も出てくる
- 法人向け福利厚生としての導入事例が増える(弊社でも企業ウェルネス用途での実施が継続的に伸びています)
科学的な裏付け
頭皮マッサージが副交感神経を優位にし、ストレス指標に影響するという報告や、血流促進による毛乳頭への栄養供給改善は、これまでも示されてきました。下期はここに「測って見せる」が加わります。
いま準備できること
- サロン:メニュー名ではなく、何がどう変わるのかの指標を決める。指標がないメニューは値下げ競争に巻き込まれます
- 生活者:入浴中に指の腹で耳上から頭頂部へ円を描くように揉む、週数回スカルプブラシを使う — これだけでも継続すれば十分な自宅ケアです
予測5|デバイスと処方が「セット商品」になる
そう考える根拠
CES 2026でL’Oréalは、LEDマスクと併用前提の美容液を開発していると明言しました。同社の赤外線スタイラー「Light Straight + Multi-styler」も、低温での施術を前提とした設計です。デバイス側の物理条件に合わせて処方を作る、という発想がはっきり出てきました。
下期に起きること
- 「このドライヤー/アイロン専用のヘアオイル」といった機器連動型の処方が国内でも増える
- 高温スタイリングの見直しが進む。一般的なアイロンは200℃を超え、この温度帯ではケラチンが変性します。「低温+光/風」への置き換えが高価格帯から降りてくる
- ただし大手の主力デバイスの発売は2027年予定のものが多く、下期は情報が出るだけで市場は動かない可能性も高い。ここは外れるかもしれません
いま準備できること
- ブランド:自社の処方が「どの温度・どの手順で使われるか」を前提条件として書く
- 生活者:新しいデバイスを待つ必要はありません。いま使っているアイロンの温度を10〜20℃下げるだけで、髪へのダメージは確実に減ります
予測6|「説明責任のあるJ-Beauty」が輸出の軸になる
そう考える根拠
J-Beautyの「シンプル・伝統成分・内外美容」という評価は定着しました。ただし2026年の消費者は、ストーリーだけでは動きません。上期の市場分析では、臨床的な有効性の実証、アレルゲン規制への対応、AI診断の組み込みを実現した企業がプレミアム消費のシェアを取っていると指摘されています。
下期に起きること
- 椿油・米ぬか・発酵エキスといった伝統成分に、作用機序や試験データを添えて出すブランドが増える
- アジア圏(台湾・マレーシア・中国)での日本ブランドの展開において、「日本製」だけでは差がつかなくなる
- サステナビリティも「宣言」から「証拠と開示」へ
Faviewとの親和性
弊社が向き合ってきたのは、まさにこの「説明責任」の部分です。日本国内で特許2件を取得し、米国でも1件を出願中。頭髪の状態を8つの軸(髪の細さ/水分量/量/頭皮のかたさ/頭皮の色/髪質/フケ/抜け毛)で捉え、その組み合わせから約37万5千通りの状態を判別しています。
そのうえで、生活者には「〇〇タイプ」というわかりやすい形で返す。厳密さと、伝わりやすさは両立させないと意味がないというのが、この5年で学んだことです。
まとめ ― 下期の6つの仮説
- 診断が接客の前提になる — 測らないカウンセリングが古く見えはじめる
- AI経由の指名されない購買が顕在化 — 説明できる商品が構造的に有利に
- GLP-1由来の抜け毛が相談窓口に — 「痩せた」と「抜けた」を結びつけて聞く
- ヘッドスパの二極化 — 気持ちよさ か エビデンス か
- デバイス×処方のセット化 — ただし本格化は2027年かもしれない
- 説明責任のあるJ-Beauty — ストーリーに証拠を添えられるか
共通しているのは、「言い切る」より「示す」ほうが強くなるという流れです。上期に業界が手に入れたのは測定手段でした。下期に問われるのは、測った結果をどう伝え、どう続けさせるかだと考えています。
Faviewでは、スマートフォンで1〜3分の頭髪チェックと、その結果に基づく製品・生活習慣の提案を提供しています。まずはご自身の頭皮を一度「見て」みてください。そこからしか始まらないと、毎日カルテを見ていて思います。
半年後、この6つがどれくらい当たっていたか、また書きます。
参照ウェブサイト
- BeautyMatter: The Haircare Trends Set to Define 2026
- BeautyMatter: How Agentic AI Is Reshaping Beauty Discovery
- eMarketer: AI search reshapes beauty brand discovery
- International Journal of Dermatology: GLP-1受容体作動薬と脱毛・発毛の系統的レビュー
- L’Oréal: CES 2026 プレスリリース
- Engadget: L’Oréal’s CES 2026 beauty devices
- ヘアケア市場:市場シェア分析、業界動向と統計(2026-2031年)
- ヘッドスパ市場に関する公的統計の解説記事
