【2026年上期振り返り】ヘアケアは「感覚」から「計測」へ ― 半年で何が動いたのか

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2026年も折り返し地点を過ぎました。毛髪診断士として、そしてヘアテックの事業者として現場に立っていると、この半年は「髪をなんとなく整える時代」が本格的に終わりはじめた期間だったと感じています。

ここでは2026年1〜6月に起きた動きを、市場・製品・技術・医療・流通の5つの切り口で振り返ります。


1. 数字で見る上期 ― ヘアケアはビューティの成長エンジンに

「ヘアケアはスキンケアの次」と言われてきましたが、上期の数字はその前提を覆すものでした。

最新トレンド

  • 米国のプレステージ流通において、ヘアケアはビューティの中でも最も伸びたカテゴリの一つで、上期売上は前年比11%増、個数ベースでも8%増【Circana / Happi, 2026】
  • なかでも伸びが際立ったのがヘアセラム(美容液)で、約60%増
  • マスク、オイル、洗い流さないトリートメント、そして頭皮向け製品も堅調に伸長
  • グローバルのヘア&スカルプケア市場は2026年に約1,089億ドル規模と予測、年平均成長率は6.39%【市場調査レポート, 2026】

読み解き

伸びているのは「洗う」ではなく「補修する」「育てる」の領域です。シャンプーの棚がそのまま拡大しているのではなく、スキンケアでいう美容液・集中ケアにあたる高単価アイテムが売上を押し上げている。つまり消費者は、ヘアケアに対して課題解決の予算を割きはじめています。

日本市場も同じ方向です。国内の育毛関連製品市場は2025年に約5.4億ドル、2034年には約8億ドルに達すると予測されており、成長要因として高齢化、男性グルーミングの拡大、そして臨床的な裏付けのある製品への需要増が挙げられています【市場調査レポート, 2026】。


2. 「頭皮ファースト」がトレンドではなく前提になった

数年前まで頭皮ケアは「新しい提案」でした。2026年上期、それはデフォルト設定に変わりました。

最新トレンド

  • スカルプケアが「スキンケアの延長」として明確に位置づけられ、頭皮用の美容液・スクラブ・角質ケアが標準ラインナップ化
  • ボンドビルディング(毛髪内部の結合修復)系は引き続き主流。プレバイオティクス/ポストバイオティクスで頭皮環境から整える設計も韓国発ブランドを中心に増加
  • Z世代・アルファ世代がスキンケアの作法をそのままヘアケアに持ち込み、「フェイシャルのような頭皮ケア」を求める動きが顕著

科学的な裏付け

頭皮は皮膚です。皮脂分泌、炎症、微小循環の低下、毛包へのストレス — これらは毛周期に直接影響します。国内の育毛市場分析でも、過剰な皮脂・炎症・血流不全といった特定の頭皮状態をターゲットにした処方への需要増が指摘されています。

Faviewの現場感覚

弊社が2026年6月に公開した顧客インサイトレポートでは、女性の自己申告データ約8,300件を分析したところ、悩みの83.5%が「髪の表面」(パサつき・うねり・ツヤ)に集中していました。一方で、毛髪診断士がカルテ化した約740件では、頭皮スコアが「良好」だったのは14.8%のみ。さらに、表面の悩みを訴えた女性の88.2%が頭皮スコア3以下でした。

「表面の悩みを自覚しているが、原因は頭皮側にある」— この認識ギャップこそ、頭皮ファーストが業界の合言葉になっても消費者行動が追いつかない理由です。


3. サロンに「測る機械」が入った半年

上期でもっとも構造的だった変化は、診断デバイスのサロン導入が例外ではなくなったことだと考えています。

最新トレンド

  • Kérastaseの「K-Scan」、Malibu Cの「Digital Scope」といった診断ツールがグローバルのサロンに展開。拡大画像の撮影、毛の太さや軟毛/硬毛比率などの指標分析、経時的な変化の追跡が可能に【BeautyMatter, 2026】
  • 施術が「気持ちよかった」で終わらず、ビフォーアフターの視覚的な証拠を提示する方向へ
  • 結果として、サロンメニューが単発の物販から継続的な treatment plan(ケア計画)へと再設計されはじめた

CES 2026 ― 光と機械学習

1月のCES 2026では、L’Oréalが赤外線を使ったスタイリングツール「Light Straight + Multi-styler」を発表しました。

  • 一般的なストレートアイロンは200℃超に達しケラチンが変性するが、同機はプレート温度を約160℃以下に抑えつつ近赤外線で毛髪内部の水素結合にアプローチする設計
  • 開発期間7年、1,000人規模でのテストを経てCES 2026イノベーションアワードを受賞。発売は2027年予定
  • 内蔵センサーと機械学習アルゴリズムが使用者の手の動きに適応する、というパーソナライズ設計

同じくCESでは、Amorepacificが45万件超のデータで学習したAI画像診断をSamsungのAIビューティミラー上で展示。診断結果がそのままLEDデバイスやケア提案につながる構成でした。

ここで押さえておきたいのは、大手が「デバイス単体」ではなく「診断→提案→デバイス→処方」の一連の輪を作りにきているという点です。


4. 医療・研究サイドの地殻変動 ― GLP-1と再生医療

上期は、ヘアケアが美容領域だけの話ではなくなった半年でもありました。

GLP-1と抜け毛

2026年に発表された系統的レビューでは、GLP-1受容体作動薬(インスリン分泌を促す作用を持つインクレチンの一種の薬)を使用した患者62万人超のうち約1.6%に脱毛の報告があったと報告されています【International Journal of Dermatology, 2026】。別の分析では、自覚的な抜け毛を報告する人は10〜15%程度という数字も出ています。

ポイントは、多くが薬剤そのものではなく「急激な体重減少」に起因する休止期脱毛(telogen effluvium)と考えられており、体重が安定すれば回復するケースが多いこと。ただし回復の実感には6〜12か月かかることもあります。鉄・亜鉛・たんぱく質が不足している人ほどリスクが高いという指摘もあり、栄養・生活習慣とセットで診るべき領域です。

再生・幹細胞アプローチ

  • 毛包幹細胞の代謝経路に作用し、休止した毛包を「起こす」ことを狙うPP405(Pelage Pharmaceuticals)がフェーズ2で毛髪密度の有意な増加を報告
  • エクソソーム療法については、11本の臨床研究を対象としたレビューで1cm²あたり9.5〜35本の毛髪密度増加が報告されています【Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology, 2025】

ただし ― 期待と実装のギャップに注意

同時に上期は、過剰な訴求への警鐘が鳴った半年でもありました。米国の専門クリニックは、「FDA承認のエキソソーム療法」を掲げる施設があれば、それは事実に反する表示であると明確に指摘しています。研究として有望であることと、承認された治療として提供できることの間には、依然として大きな距離があります。

毛髪診断士として、ここは強調しておきたい部分です。エビデンスの段階を正しく伝えることは、業界全体の信用の問題です。

患者層の若年化

米国の毛髪外科学会の調査では、2024年に初めて植毛手術を受けた患者の95%が20〜35歳でした。「中年男性の悩み」というステレオタイプは、すでに現実と合っていません。


5. ヘッドスパの産業化 ― 拡大と淘汰が同時に来た

最新トレンド

  • 国内のリラクゼーションサロン市場は3年連続で拡大し、2025年に3,798億円規模と推計【ホットペッパービューティーアカデミー 美容センサス2025】
  • 「Japanese Head Spa」は海外でも定着し、インバウンド需要の受け皿にもなっている
  • 一方で、美容室の倒産件数は過去最多水準という報道もあり、需要の拡大と供給過剰が同時進行

何が起きているか

ヘッドスパの需要そのものは本物です。ただし「気持ちよさ」だけで差別化できる時期は終わりつつあります。同じ価格帯に無数の選択肢が並んだとき、顧客が選ぶ基準は「自分の状態に合っているとわかること」に移ります。

上期に診断デバイスの導入が進んだ背景には、この競争環境があります。測れるサロンは、単価と再来店率を説明できる。


6. 「入口」がAIに移りはじめた

最後に、流通側の変化です。

最新トレンド

  • ビューティはエージェント型コマース(AIが商品を調べ、比較し、推薦する購買)の先行カテゴリになりました。悩み・肌質・成分といった消費者のクエリが、構造化された商品属性にきれいに対応するためです【BeautyMatter / Paz.ai, 2026】
  • ChatGPT経由の流入は、Targetの紹介トラフィックの15%、Walmartでは20%を占めるという数字も出ています【BeautyMatter, 2026】
  • 2026年の「AI Beauty Authority Index」では、CeraVe、The Ordinary、Drunk Elephantが上位。一方で歴史あるメイクアップブランド群は下位に沈みました【eMarketer, 2026】

読み解き

これは広告予算の大きさとAI上の可視性が一致しないことを示しています。AIが参照するのは、成分・悩み・使用方法などが明確に記述され、レビューの蓄積があり、第三者から言及されている情報です。

つまり、「説明可能な商品」が構造的に有利になる。これはヘアケアにとって追い風でもあり、宿題でもあります。


まとめ ― 2026年上期を一言でいうと

この半年を貫いていたのは、「髪を、感覚ではなくデータで扱う」という一本の線でした。

  1. 市場:伸びているのは補修・育成といった課題解決型の高単価領域
  2. 製品:頭皮ファーストがトレンドから前提条件へ
  3. 技術:診断デバイスがサロンに常設され、経過観察が売りになった
  4. 医療:GLP-1由来の抜け毛と再生医療が、ヘアケアを健康領域に接続した
  5. 流通:AIが商品発見の入口になり、「説明できる商品」が有利になった

Faviewは2021年の設立以来、スマートフォンで1〜3分の頭髪チェックと、その結果に基づく製品・生活習慣提案を積み上げてきました。上期に世界で起きたことは、私たちが賭けてきた前提 —「髪の状態は測れるし、測ったほうが人は続けられる」— が業界の共通言語になっていく過程そのものだったと感じています。

下期の予測については、別記事にまとめます。


参照ウェブサイト